もし古代ローマ人が食べていた料理を現代でも食べられるとしたら、あなたは料理を再現して味わってみたいと思うだろうか。
古代から近代まで、様々な時代食事を再現する――そんな夢のようなことを実際にできるように、昔の人が使っていた材料や調理法が掲載されている本がある。それが遠藤雅司氏の著作、『歴メシ!』だ。
Twitter上でも音食紀行@onshokukikoとして活動されており、またWebサイト(ホームページ)もあるので、ご存知の方もいるだろう。
今回私こと名もなき司書官は、『歴メシ!』に掲載されている古代ローマ料理のいくつかを実際作って、味を確かめてみることにした。
- 古代ローマ人はいったいどんなものを食べていたのか
- それは現代日本の私(たち)の口にも合うのか
もしあなたも古代ローマ人の料理を作る機会があれば、参考にしていただければ幸いだ。
何を作るか決める!
『歴メシ!』には古代メソポタミア(紀元前3,000年)からプロイセン王国(19世紀後半)まで、実に様々な場所や時代の料理が紹介されている。
この多彩な料理の中でいったいどれを作るかだが、このサイトで取り扱っている時代は古代ローマなので、もちろん古代ローマ料理を選ぶことにした。
『歴メシ!』に掲載されている古代ローマ料理のメニューは全部で5種類。
- サラ・カッタビア(古代ローマ風チキンサラダ)
- 豆のスープ 庶民風
- プルス(古代ローマ風リゾット)
- 古代ローマ風 牛のステーキ
- モレートゥム・ヒュポトリッマ(ハチミツ入りカッテージチーズ)
このうち(2)の『豆のスープ 庶民風』は今回作る料理から除外することにした。
なぜって?
それは私が大の豆嫌いだから。
私はローマ人の魂をもっていても、ローマ人の味覚ではなく極東の島国の味覚になれきった司書官なのさ……。ローマ人にあるまじき姿を晒して、本当に申し訳ない。
その他の4品はすべて1日で作り、夕飯で味わうことに。一回で食べる分量としてはちょっと多いかとも考えた。しかし思い立ったが吉日。すべて作ってしまおう!
料理の材料を買う!
コンセプトは「手抜き」
作るものが決まれば、さっそく近所のスーパーに材料の買い出しへ。
古代ローマ料理をできるだけ再現することが目的だが、今回のコンセプトはできるなら手抜きをどんどんする。例えば(1)のサラ・カッタビアには、「食パンを焼いてクルトンを作る」工程があるが、私は迷わずクルトンを買った。
まあ最大の手抜きは同じくサラ・カッタビアのドレッシング作りをすっ飛ばして、市販のイタリアンドレッシングを買ったことなのだが……。
普段買わない食材&調味料たち
ところで今から作ろうとしている古代ローマ料理の材料は、普段私が使っていない材料が非常に多い。先述したドレッシングづくりを諦めたのも、近所のスーパーでは売っていなかった材料があったから。
それでも売っているものは、できるだけ購入した。例えば、下記のようなものたちだ。
また古代ローマの調味料といえば魚醤(ガルム)が有名だ。もちろん今から作ろうとする料理にも使われている。ただし古代ローマのものはないので、東南アジアの魚醤ナンプラーで代用することにした。
もしあなたが本気で(?)古代ローマの料理を再現する気なら、古代ローマからの製法に近い、直系調味料『コルトゥーラ』をおすすめする(情報は鋼屋@haganeya01様からいただきました。ありがとうございます)。
ただし注意してほしいのは、少量でも十分風味がでること。あまり大量に使いすぎると生臭くなるらしい。レシピどおりの分量では多い気がするので、調整する必要はあるだろう。
また純国産の魚醤も売っているので、もし日本人の味を求めるならそちらを買う手もある。
なおスーパーで探しきれなかった(売っていなかった)コリアンダー粉とセロリ粉は購入を断念。
とはいえ、もしあなたのお近くにあるスーパーに上記材料がなかったとしても、一つぐらい買わないか代用品を使う方法もある。すべての材料を真面目に揃えなくてもなんとかなるものだ。
やっぱり高かったのは・・・
上記の他にも、
- 赤ワイン
- 白ワイン
- ブドウ果汁の代わりの100%ジュース
- 干しぶどうの代わりのラムレーズン
と購入する。材料費がかさむ……。
しかしこれらの中でも、飛び抜けてエンゲル係数を挙げたのは牛フィレ肉!
流石に400g買う勇気がなかったので、大半をロース肉に変更した。それでも1番高い。さすが貴族の食事メニューだと妙に感心する。
あと、古代ローマ料理にはないフランスパンも購入。
なぜかって?
やっぱり保険は大事だよねってことで(笑)。
古代ローマ料理を調理する!
さて、材料を一通り買い揃えたところで、次は調理に入ろう。その前に今回購入した食材&調味料たちの集合写真を記念に撮影しておく。
普段買わない材料が一斉に顔を揃えていて、壮観ですらある。古代ローマと時代が違う食材(フランスパン)も混ざっているが、そこは気にしてはいけない。
ちなみにフランスパンは、ガーリックトーストにする予定だ。
料理を作る順番は、次の通り。
- モレートゥム・ヒュポトリッマ(ハチミツ入りカッテージチーズ)
- 古代ローマ風 牛のステーキ
- サラ・カッタビア(古代ローマ風チキンサラダ)
- プルス(古代ローマ風リゾット)
最後にプルスを持ってきたのは、他の料理と違って置いておくと大麦がふやけると判断したため。それ以外の調理順に深い意味はない。
モレートゥム・ヒュポトリッマ(ハチミツ入りカッテージチーズ)
主な食材 | カッテージチーズ、ハチミツなど |
---|---|
調理時間 | 2分程度 |
まずは簡単そうな料理ということで、デザートから。
モレートゥム・ヒュポトリッマの調理は、カッテージチーズに決まった調味料を入れて、ひたすら混ぜるだけ。
すべての材料をボールに入れ…
ひたすら混ぜて、完成!
調理時間わずか2分の超お手軽料理だった。古代ローマには当然冷蔵庫がないので、モレートゥム・ヒュポトリッマもおそらく常温で食べていただろう。
ただ現代には便利な道具があり、どう見ても冷やしたほうが美味しそうなため、ラップにくるんでしばらく冷蔵庫で冷やすことにした。
古代ローマ風牛のステーキ
主な食材 | 牛フィレ肉 |
---|---|
調理時間 | 30分程度 |
お次はローマ貴族の胃袋を満たしたメインディッシュ、牛ステーキ。この料理が口に合わなかったらショックだろうな、と思いつつ調理開始。
はじめにレシピどおりの材料を計量してソースを作る。ハチミツと魚醤を入れるのがいかにも古代ローマらしい。いくつか足りない香草類があるが、特に問題ないだろう。ソースを混ぜるときに香る香草の匂いが食欲をそそる。
そして一口大にカットした牛肉を焼く。古代ローマ人はナイフとフォークを使って自ら料理を切り分けなかったので、あらかじめ切ったものを調理するらしい。
肉に火が通ったころを見計らい、先ほど作っておいたソースを投入する。牛肉が見えなくなるぐらい、ソースと香草でフライパンが満たされてしまった。
これで煮立てるようなのだが、煮立たせてる間中むちゃくちゃ酸っぱいにおいしかしない!!
本当にこれ食べられるよね、と不安になりながら、煮立ったことを確認して火を消した。他の料理ができるまで、一旦冷ましておく。
ほんとに食べられるんだよね……(超不安)。
サラ・カッタビア(古代ローマ風チキンサラダ)
主な食材 | 鶏もも肉、コーンビーフ、きゅうり、玉ねぎなど |
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調理時間 | 30分程度 |
3つ目の調理メニューはサラダ。メインディッシュよりも前菜をあとから作る段取りの悪さは目をつぶっていただきたい。
このサラダ料理はとことん手抜きを目指した。クルトンづくりは市販のもので代用し、ソースもイタリアンドレッシングを使う。なので私がやることは、
- 鶏肉を茹でる
- レシピの材料を混ぜ合わせる
の2つだけ。ほら簡単。
ではさっそく鶏肉を茹でるための材料を見てみる。この料理は鳥の煮出し汁も使うから、白ワインに塩を入れるんだな。分量は・・・塩小さじ2杯、と。
え、小さじ2杯?
ちょっとまって、いくらなんでも多すぎない?誤植?
『歴メシ!』を何回確認しても、小さじ2と書いてある……。とりあえず本に書いてあるとおりにし、この中に鶏肉を投入して煮ることに。火の通った鶏肉のひとかけらをつまんでみたが、やっぱり辛い(泣)。
鶏肉を茹でている間に、混ぜる材料をボールに投入
あらかじめ鶏肉以外の材料を入れたボールの中に鶏肉を投入し、煮汁と手抜きのドレッシングを混ぜ合わせてボールに注ぐ。
あとは1時間ほど冷やして完成。鶏肉の辛さは消えているのだろうか……。
プルス(古代ローマ風リゾット)
主な食材 | 大麦など |
---|---|
調理時間 | 30分程度 |
最後は大麦粥。調理方法はひたすら大麦を煮る!
まずは水でグツグツ。弱火だと煮えている気がしなかったので、中火に変更。
15分後、ディルやオリーブオイルなどを加えて、さらにグツグツ。中火だと圧倒的に水が蒸発してしまったので、足し水をして煮込む。
最後にぶどう果汁ベースと香草類を混ぜ合わせたソースを投入し、適度に馴染んだところで完成。
これにて本日の調理は終了。一つひとつを撮影していたために、調理時間が2時間を超えてしまった。おそらく段取り良くやれば、1時間ほどは短縮できそうな気がする。
それにしても古代ローマ人、なんにでも(赤ワインを含めた)ぶどう汁と魚醤、ハチミツを入れるな……。
古代ローマ料理を堪能する!
はい、というわけで完成しました古代ローマ料理、略して『ローマメシ』!
『歴メシ!』の撮影写真と同じ美味しそうな見た目をしているが、果たしてお味の方はどうなのか……!?さっそく食べてみよう。
ちなみに『ローマメシ』のお供は、調理で余った白ワインと赤ワイン。
これはこれでいいんだけど、もう少し古代ローマ感を味わいたいあなたには、古代ローマのワイン―起源やたしなみ方、当時のブランドと現代に受け継がれたワイン造り―で紹介するワインをおすすめしよう。
各料理の食事レポート
まずは前菜サラダ、サラ・カッタビアを試食してみる。
懸念点は素人目(?)でもわかる茹で汁につかった塩の多さ。これがソースと混ぜ合わせることで解消されているかを確認してみたが、予想通り塩辛かった……。
クルトンにもだし汁が染み込んでいたので、煮詰めた煮汁が辛いのが一層引き立ってしまったのではないかと思う。
とはいえ、この料理は今回調理した中で最大の手抜きをしたもの。つまりレシピ通りの材料を使っていないので、レシピ通りなら塩味さが中和されたのかもしれない。
ただ、それでも私はあえて塩の量を小さじ1杯程度にとどめておいたほうがいいと助言したい。調理途中の見た目にも、健康にも。
もう一つ、クルトンをボウルに敷き詰めて出汁を染み込ませているが、私はカリッとした食感が大好きなので、クルトンは最後に添えるほうが好みかもしれない。
調理当日から1日経過し、余っていたサラ・カッタビアを昼ごはんのお弁当に持っていって食べたところ、辛味がかなり中和されてマリネ風味になっていた。
もし私と同じく(同じ塩の分量で)調理したなら、一晩寝かせてみてはいかがだろう。
古代ローマといえば、麦の粥!というわけでこちらも試食。
素朴な味を期待していたが、ぶどう(やビネガー)の酸味が効いた超濃厚な味わいが口いっぱいに広がった。あと、オリーブオイルに香草も加わり、なかなかインパクトが強い。
ただ私と同居家族一同、酸味のきつい味が超苦手で、この料理とは相性があまり良くなかった。残念……。
大麦粥そのものは食べれるのではないかと思い、次の日の朝に
- 古代ローマでも手に入る材料
- シンプルな味
で再チャレンジしたところ、美味しくいただくことができた。具体的には塩ベースにぶどう汁(や酢類、魚醤など)は混ぜなかっただけだが。
プルスとは対照的に、想像していたよりも酸味がすくなかったのが古代ローマ風牛ステーキ。
調理レポの古代ローマ風牛のステーキでも書いたとおり、ソースを投入してから酸味の匂いがきつすぎて不安になっていたのだが、いざ味わってみると酸味が抑えられオリーブオイルとスパイシーな味わいが口の中に広がる、私好みの味だった。
おそらく古代ローマでは牛をしっかり焼いていたと推測されるので、今回は焼き加減を少し強めのウェルダンにしてみたが、肉の柔らかさを出すなら、もう少し焼き加減を弱くして、敢えてミディアムにしてもいいかもしれない。
不安と期待の『ローマメシ』を堪能したところで、いよいよ食後のデザートに、モレートゥム・ヒュポトリッマをいただく。
まず口に含んだ第一印象が、
チーズケーキっぽい!
だった。
貴族の食事として紹介されていたので例えが悪いかもしれないが、「コンビニスイーツでこんな味を食べたことがある!」という感想も頭に浮かぶ。
もちろん現代のものよりオリーブオイルやコショウの味が濃厚なので、そこが古代ローマ風といったところか。
キンキンに冷やして味わうと美味しくなるので、ぜひあなたもご賞味いただくといいだろう。
今回のまとめ
以上が今回『歴メシ!』を参考に作ってみた古代ローマ料理、『ローマメシ』の食レポである。
手抜き料理に食材が揃わないという条件付きながら、材料購入にもこだわってみたので、もしあなたが古代ローマ料理を作る機会がおとずれた時、この記事が参考になれば嬉しいかぎりだ。
『歴メシ!』には古代ローマの他にも
- 古代メソポタミア
- 古代ギリシア
- 中世イングランド
- イタリア・ルネッサンス
- 近世フランス
- 近代ドイツ
などの料理も紹介されているので、古代ローマならず西洋の歴史ファンであれば楽しめるのではないかと思う。