ローマ富裕層の酒宴、コミッサーティオ ―ケーナのあと、時には夜明けまで続く無礼講―

ローマ富裕層の酒宴 コミッサーティオ

ローマの富裕層たちは、客たちを招いたケーナ(夕食)のあとに、コミッサーティオと呼ばれる酒宴をしばしば開いた。
コミッサーティオは現代でいうなら、料理でもてなした接待のあとの二次会と思ってもらえばよいだろう。

ローマでは酒宴の席でも理性が重んじられたようだが、それは建前の話で、より親交を深める無礼講だった。

ではコミッサーティオとは、どんなお酒を飲み、どのような催しが行われていたのだろうか。

この記事では次のことを書いていく。

  • ケーナのあとに行われる酒宴コミッサーティオ
  • コミッサーティオで出される酒とつまみ
  • コミッサーティオでの酒の飲み方
  • コミッサーティオやケーナでの余興
  • コミッサーティオでの遊び

それでは、時には明け方まで続いたローマ発の酒宴を見てみよう。

ケーナのあとに行われる酒宴コミッサーティオ

前出したように、コミッサーティオとよばれる酒宴は、ケーナの後に行われた。
ケーナについては、ケーナでの晩餐について―ローマの上流階級は本当に自堕落な食生活だったのか―をご覧いただきたい。

この記事でも紹介したが、富裕層たちのケーナでの晩餐は、トリクリニウムと呼ばれる部屋で行われる。
トリクリニウムでは臥台に寝そべって飲食を楽しんだ。
当然、ケーナの続きで行われるコミッサーティオも同じく、臥台の上で飲むことになる。

また、ケーナで衣服を汚してしまった参加者は、酒宴の前に着替えることもあったという。

コミッサーティオ(酒宴)で出される酒とつまみ

酒宴で出された代表的なお酒

コミッサーティオで出されるお酒は、ほとんどがワインだった。
古代ローマでは現代とは違い、ワインは赤よりも白が好まれた。

ワインは現代とおなじくピンからキリまである。
だが富裕層の酒宴では、安いワインは出てこなかっただろう。

古代ローマで高級なワインとして名前があがるのは、次の通り。

  • ファレルヌム(ネアポリス(ナポリ)近郊のファレルヌス山の斜面で採れるぶどうで製造)
  • アルバヌム(ローマの南の地域で製造)
  • カレヌム
  • マッシクム
  • カエクブム

また、これも現代と同じく製造年によっても味や値段が違っていた。

ワインについては古代ローマのワイン―起源やたしなみ方、当時のブランドと現代に受け継がれたワイン造り―でも詳しく書いているので、興味があればぜひ読んでいただきたい。

酒宴で出された代表的なおつまみ(トラケマダ)

酒宴の席で欠かせないのが、酒のお供であるおつまみだろう。
コミッサーティオでは、つぎのようなものがおつまみとしてテーブルに置かれていた。

  • ソラマメ
  • エジプトマメ
  • 煎った麦粒
  • ドライフルーツ
  • 果物
  • 甘いお菓子

コミッサーティオ(酒宴)での酒の飲み方

コミッサーティオでは、1つの酒杯を参加者が時計回りに受け渡してお酒を飲んだ。
臥台に寝そべって受け渡すので、お酒が溢れることもあった。

しかしローマ人たちは、こぼれたお酒を神への捧げ物として気にしていなかったらしい。
あまりにもこぼれる量がおおく、床がびしょ濡れになると、おがくずが巻かれた。

また、酒宴でのお酒の飲み方は、しばしば招待主が決めた。

一つ例にあげてみよう。
招待主は、参加者の一人を選ぶと、彼(彼女)の名前の一文字ごとに乾杯する方法をとった。
ローマ人なら、どのような人でも3つ(個人名、家門名、家族名)の名前を持っていたので、非常に長いのだ。
参加者のうち、どれだけの人間が意識を保てたのか、想像にかたくない。

コミッサーティオやケーナでの余興

コミッサーティオやケーナでは、招待主が来賓のために、様々な趣向をこらした。

楽師

楽師は現代でもある、生演奏を披露してくれるミュージシャンだ。
彼らは主人が話す間は音を小さくしたり、また奴隷が読む詩の朗読に合わせて、即興で曲調を変更したりもできた。

曲芸師

現代のパフォーマンサー。
大道芸人が近いだろう。
玉投げ、刀投げや玉乗りなど、様々な芸を披露した。

奇術師

現代のマジシャン。
古代ローマでどのようなことが行われていたかよくわからないが、トーガから鳩が出てきたかもしれない。

喜劇役者

現代日本でいうならお笑い芸人だろうか。
参加者を笑わせる芸を披露した。

踊り子(女性)

異国情緒あふれる官能的な踊りをする女性ダンサー。
ヒスパニアのガデスは現代のアンダルシア地方カディスであり、その地方出身の踊り子はカスタネットをつかったフラメンコにも通じる踊りを踊ったという。

剣闘士

剣闘士とは、観客の前で命をかけた戦いを披露する戦士たちだ。
通常個人の邸宅ではく、闘技場で戦う。

ただし、お金を出せばラニスタと呼ばれる興行師(剣闘士を手配したり、剣闘試合を組んだりする人)から、数人の剣闘士を借り出すこともできただろう。

なお闘技場で戦う剣闘士については、剣闘士― 民衆を熱狂させた古代ローマ帝国のグラディエーターたち―をご覧いただければと思う。

コミッサーティオで行われた遊び

コミッサーティオでは、招待主が用意する余興のほか、参加者自身も娯楽などで楽しんだ。
ここでは参加者たちしていた娯楽の一部を紹介する。

ゲーム

  • チェッカー(西洋碁)
  • バックギャモン(戦略的なすごろくゲーム)
  • サイコロ遊び(大小ゲームなど)

その他

  • 参加者同士で歌をうたう
  • 謎掛け
  • 哲学を語りあう
  • 談笑する

など

おそらく参加するものの知的レベルや個人的な好みで変わったに違いない。
これは現代の飲み会でもさして変わらないだろう。

今回のまとめ

コミッサーティオ(酒宴)について、もう一度おさらいしよう。

  • コミッサーティオはケーナのあとに続いて行われた2次会のようなもの
  • コミッサーティオで出される酒はワインが多く、白ワインが好まれた
  • コミッサーティオでは招待主がしばしば飲み方を決めた
  • コミッサーティオやケーナでは、余興が開かれることもあった
  • コミッサーティオでは参加者同士もゲームなどを楽しんだ

やはり親睦を深めるには、酒の力を借りるのが一番なのだろう。

2次会、3次会とはしごして、夜があけるまで飲み続ける現代人の感覚と、そんなに変わらないのかもしれない。

本記事の参考図書

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