グナエウス・ポンペイウス・マグヌス。これが第一回三頭政治でカエサルやクラッススとともに、ローマ政界を牛耳ったポンペイウスのフルネームである。
ドラマや映画などの創作物で、カエサルのライバルとして描かれることが多いため、カエサルとの対立以後のポンペイウスは比較的知られているのではないだろうか。
しかしポンペイウスはカエサルが飛躍する以前、ローマ政界の大物スッラが亡くなった後は、他を寄せ付けない圧倒的なキャリアを築いた。またローマ市民から絶大な人気を誇っていたのである。
では彼の生涯とはどのようなものだったのだろうか。そして軍事的実績も政治的影響力もあったポンペイウスは、なぜカエサルの後塵を拝することになったのだろうか。
ここでは彼の生涯を書いた記事をまとめているので、ぜひご覧いただければ幸いだ。
※タイトル下のイメージはWikipedia(Alphanidon, CC BY-SA 4.0)から拝借しています。
ポンペイウスの生涯
ポンペイウスⅠ 誕生からセルトリウス戦争前半まで
カエサル誕生に先立つこと6年前の前106年9月29日、ポンペイウスはこの世に生を受けた。彼はピケヌムの裕福な家庭で育ち、父がポンペイウス家で初めて執政官となったため、彼のキャリアも約束されたかに思われた。
ところがローマでは、マリウス派とスッラ派に分かれて相争う内乱が始まり、ポンペイウスも否応なしに闘争の渦に巻き込まれていく。
それでもポンペイウスは時流を読み、スッラ派として頭角を表すと次々と軍功を立てていく。そして彼は若干26歳という若さで史上最年少の凱旋式挙行を成し遂げた。
ポンペイウスⅡ セルトリウス戦争終結から海賊討伐まで
スペインのセルトリウス相手に苦戦を強いられたポンペイウス。しかし最後にはスペインの制圧に成功し、返す刀でそのころイタリア半島に吹き荒れた奴隷戦争にとどめを刺した。
彼は政治キャリアを積むことなく、一足飛びで執政官となると、その数年後には地中海中にはびこった海賊退治を引き受けた。
前代未聞の兵力を動員して行われた海賊退治は、ポンペイウスの巧みな采配で成功し、地中海から海賊は一掃されたのだった。
ポンペイウスⅢ ―ミトリダテス戦争と東方再編成まで―
海賊退治後も軍を解散することなく東方に居残り続けたポンペイウス。彼の目的は、長年ローマを悩ませてきたミトリダテス6世との戦いに、決着を就けること。
ルクッルスから軍指揮権を取り上げたポンペイウスは、早速ミトリダテスを撃破。その足でアルメニアやコーカサス地方、カスピ海沿岸にシリア、ユダヤ、ナバテア王国まで遠征し、ローマの影響力を東方諸国に及ぼしていく。
そして東方の諸侯たちをクリエンテストして抱え、意気揚々とローマへ戻るのだった。
ポンペイウスⅣ 第一回三頭政治と食糧管理長官、2回目の執政官就任まで
しかしローマで彼を待っていたのは、元老院の重鎮たちからの冷たい仕打ちだった。そこでポンペイウスは、同じく元老院の保守派から敵視されているカエサルや、カエサルの後援者クラッススと秘密裏に手を結び、彼らの望みが実現するよう、ローマの政治を操っていく。
その後執政官を経てガリア総督となったカエサルとクラッススとの間で同盟の延長が成立。その間、ポンペイウスはローマや属州の食糧問題を解決するため、食糧長官となって大権を振るい、取引所の穀物倉庫を満たしていく。
その頃東ではパルティアへ遠征したクラッススが死去。カエサルの娘であり妻ユリアも産褥で命を落としたため、三頭同盟は崩壊しカエサルとポンペイウスの間に隙間風が吹くようにになる。
ポンペイウスⅤ 単独執政官就任からカエサルとの対立、内乱勃発まで
混乱したローマの政治を立て直すため、単独執政官へ就任したポンペイウス。その間に元老院の重鎮メテッルス・スキピオの娘コルネリアと結婚したことで、カエサルとの同盟関係は完全に消滅した。
さらに同僚執政官に義父を選び、反カエサルの法案を成立させ、カエサルを追い込んでいく。幾度となく提案する交渉をはねのけられたカエサルは、ついにルビコン川を渡ってイタリアへと攻め込んだ。
ポンペイウスⅥ デュッラキウム攻防からファルサロスの戦い、死まで
軍備の整わないイタリアから撤退し、ギリシアの地で立て直しを図るポンペイウス。彼の頭の中には、地中海全域のクリエンテス網を利用して、カエサルを包囲する戦略が出来上がっていた。
しかしカエサルはポンペイウスの予想を上回るスピートでスペインを制圧。更に制海権を握られたアドリア海も、守備網の裏をかいて渡航に成功。ポンペイウスとカエサル直接対決のときが、ついにやってきたのだった。
ポンペイウスが描かれた作品
HBO製作の海外ドラマ『ROME』
2005年、アメリカのケーブルテレビ局HBOとイギリス国営放送BBCが共同で製作したテレビドラマシリーズ。
総製作費200億円超、企画から撮影終了まで8年を費やす超大作で、前・後編合わせて全22話からなるストーリーは、エミー賞(アメリカのテレビ番組に贈られる賞)4部門を受賞したほどの出来栄えだ。
この作品の前半はカエサルとポンペイウスの対立が軸となるため、カエサルの敵役として登場することになる。ポンペイウスの行動が主人公たちに影響を与え、また主人公たちの行動もポンペイウスの行動を決めるシーンが見られる。歴史の裏側にいた人々が、歴史の表舞台に立つ人間の運命を左右するところも、ドラマ「ROME」の見どころのひとつなので、ぜひご堪能いただきたい。
さてドラマ「ROME」の視聴は、VOD(定額動画視聴サービス)をおすすめする。なかでもU-NEXT ならドラマ「ROME」が定額料金で何話でも見放題だし、31日間無料トライラルのお試し期間つき。さらに合わないと思えばいつでも解約可能と気軽に楽しむ事ができるだろう。
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ドラマ「ROME」について、あなたがもう少し詳しく知りたいなら、ROME ―古代ローマを舞台にしたHBO製作の本格的歴史ドラマ―を参考にしてはいかがだろうか。
ポンペイウスの参考図書
私がポンペイウスの生涯を描くために参考にした図書たちを紹介する。もしあなたもポンペイウスのことをもっと詳しく知りたいのなら、ぜひ手にとってほしい本たちだ。
ローマ政治家伝Ⅱ ポンペイウス
私のポンペイウス伝は、ほぼこの本を下敷きに書いていると言っても過言ではない。初版はドイツで1940年代に発行された非常に古い本だが、ポンペイウスの資料を吟味して網羅しているとてもありがたい本だ。
言い回しが独特のため、是か非かが若干わかりにくい記述も散見されるが、他の本を併用して読むことで、著者が言いたいことを理解できるかと思う。
物語のように読みやすくはないため、ポンペイウスが何をしたのかを知りたい人向けともいえる。
古代ローマ名将列伝
ローマの将軍たち、とくに軍事的な意図を説明する著書。こちらはセルトリウス戦争を主に参考にさせていただいた。
ポンペイウスがセルトリウスとの戦いでかなり苦戦する記述があり、またセルトリウスがなぜあれだけ長くローマに楯突くことができたのか、この本を読んでもらえばわかるかと思う。
交路からみる古代ローマ繁栄史
ポンペイウスの生涯を書く最初のきっかけとなった本。ポンペイウスの海賊退治がローマの食糧事情を劇的に改善したことや、食糧長官となってポンペイウスが食糧確保に奔走したことをわかりやすくまとめてくれている。
プルターク英雄伝
ローマ帝政期に生きたギリシアの歴史家プルターク(プルタルコス)の対比列伝(英雄伝)の和訳。ポンペイウスの逸話集のような形だが、ポンペイウス最初期はこのプルタルコスの記述も史料として参考になるとおもう。
プルタークの物語<下>
岩波本は旧漢字や旧ひらがな満載で読みにくいため、とっつきやすく平易に書いてくれている阿刀田高氏バージョンのポンペイウス伝もおすすめする。
ただしプルターク英雄伝から色々と省かれているので、詳しく知りたい方は併用して読むといいだろう。
ローマ人の物語
史料をわかりやすく説明するために参考とした。この本はポンペイウスの敵役カエサル側からの記述のため、ポンペイウスが若干不当に扱われている危険性があるため、そのままの記述は差し控えている。
ただしポンペイウスとカエサルの戦いの記録はわかりやすいので、カエサルへの肩入れが激しい文章に嫌悪感を抱かないようなら、一読してみるのもいいだろう。