ケチでブサイクでやる気なし!?おしっこ税で後世まで名を残した皇帝ウェスパシアヌス

ユーモアは人一倍 皇帝ウェスパシアヌス

あなたはウェスパシアヌスという皇帝をご存知だろうか。
初代皇帝アウグストゥスや悪名高きネロのような、名の知れ渡った皇帝ではなく、どちらかといえばマイナーな人物になるだろう。

彼の全名はティトゥス・フラウィウス・ウェスパシアヌス。
暴君ネロ亡きあと、次々と名乗りを上げた皇帝を倒し、内乱を収めてフラウィウス朝を開いた創始者なのだ。

しかし、このウェスパシアヌス、

  • ケチ
  • ブサイク
  • やる気ない

と、およそ皇帝らしくない人物だったのである。

だが、ウェスパシアヌスが誰よりも飛び抜けていたものがある。
それはユーモアセンスだった。

こんなウェスパシアヌスがどうして皇帝になることができたのか。
また皇帝に即位したあと、どんなエピソードを残したのか。

今回はユーモア皇帝ウェスパシアヌスにまつわる数々の伝説を紹介しよう。

ウェスパシアヌス小史:皇帝になるまで

ウェスパシアヌス
ウェスパシアヌス | Wikipedia

まずはウェスパシアヌスが皇帝になるまでを追っていこう。

ウェスパシアヌスは軍人として、公職のキャリアをスタートさせている。
軍では才能を発揮し、4代皇帝クラウディウスの治世では、

の遠征に参加すると、一定の成果を上げた。
そのおかげでコンスル(執政官)にも当選、属州総督としてアフリカに派遣されるまでになる。

ネロの治世になると、東方で起こったユダヤの反乱を鎮圧するために同地に派遣されるが、まもなく帝国各地で反乱が起こり、ネロは自殺してしまう。

ガルバ、オトー、ウィテッリウスと次々と皇帝が擁立され、互いに争う中、ウェスパシアヌスは帝国東方で地盤を固め、ドナウ軍団、シリア軍団を味方に引き入れることに成功。
さらに三皇帝の中で唯一残っていたウィテッリウスの軍を破ってローマへ入り、皇帝に即位した。

ウェスパシアヌスの皇帝即位により、フラウィウス朝が誕生したのである。

ウェスパシアヌスのやる気なし伝説:
ネロの前で居眠り!しくじり皇帝の処世術

こうしてウェスパシアヌスは皇帝になったわけだが、実は彼自身そこまで出世欲があったわけではない。
コンスル就任後に一度軍人を退役してキャリアを中断することもあった。
しかし極めつけは、次に紹介するこの事件だろう。

ウェスパシアヌスはある時、当時の芸術家を気取る皇帝ネロが参加する音楽会に随行することになった。
この音楽会でウェスパシアヌスは、なんとネロの演奏中に居眠りしてしまったのだ。
当然ネロを激怒させたウェスパシアヌスは、自分の政治家人生が終わったと思ったことだろう。

しかし人生とはわからないもの。
ネロの治世下で当代随一の武将だったコルブロは、ネロに警戒されて自死させられているのに、寵愛を失ったおかげでウェスパシアヌスは皇帝になるまで生き残ったのだから。

暴君の代名詞とも言われるネロについては、ネロ ―母からの自立を願い、芸術と娯楽を愛した民衆派皇帝―に詳しく書いているので、興味のある方はご一読いただければと思う。

ウェスパシアヌスのケチ伝説:
おしっこに税金!?ウェスパシアヌス流財政建て直し方法

ネロの放漫財政と、それに続く内乱のせいで、ローマの財政は火の車になっていた。
そこでウェスパシアヌスは財政を立て直すために徹底した『節約』を行うことにした。

その一つに、おしっこにまで税金をかけることをやってのけたのだ。
実際は毛織物で人間の尿を使っていたために、その尿を使った分だけ毛織物業者から税金を取る、というものだった。

これには後の皇帝であるウェスパシアヌスの子、ティトゥスも反対したが、ウェスパシアヌスはティトゥスの鼻にコインの一枚を近づけると、

金が臭うか?

と言ってのけたという。

このエピソードにより、イタリアでは公衆トイレのことを『ウェスパシアーノ』と呼ぶのだそうだ。

ウェスパシアヌスのケチ伝説:香水で不採用!ウェスパシアヌス流採用基準

さらにウェスパシアヌスのケチ伝説として、こんなエピソードもある。

ある時若い士官を採用するため面接したところ、ウェスパシアヌスはその若者が香水をかけていることに気づき、不採用にした。
理由はこうだ。

香水より、ニンニクの臭いでもつけていればよかった

香水は当時でも贅沢品だったので、そんなに香りが好きなら贅沢品より匂いがきつくて安いニンニクを使えばいいだろうという皮肉である。
現代ならこんなことで不採用にされたらタダのパワハラだが、彼のケチなエピソードがよく現れている。

ウェスパシアヌスのブサイク伝説:
モテる秘訣はやっぱりお金!?ブサメン皇帝の女性問題

ウェスパシアヌスは胸像を見て分かる通り、

  • 頭髪が薄い
  • 無骨

のおよそイケメンとは程遠い姿だった。
そのことをウェスパシアヌス自身もよくわかっていたエピソードがある。

ウェスパシアヌスには、贔屓にしている若い女性がいた。
彼女にはお金の面で何かと援助をしていたらしい。

しかし彼が個人的に援助をしているのかと思いきや、事もあろうに国庫の費用を使っていたではないか。
その事を会計係に咎められると、

余に深情けをかけてくれたことへの謝礼だよ

と言い放ったらしい。

おそらく現代日本では許されないことでも、ウェスパシアヌスのユーモラスな人柄の前では問題にならないようだ。

ウェスパシアヌスの例外伝説:
サーカスは必要!?ローマ市民にコロッセオをプレゼント!

ケチ皇帝として鳴らしたウェスパシアヌスでも、一つだけローマ市民に大きなプレゼントをしたことがあった。
それが、かの有名なコロッセオだ。
完成当時はウェスパシアヌスの氏族名をとって、フラウィウス円形闘技場と呼ばれていた。

ネロの時代に造られた人工池の跡地に建設したコロッセオは、4階建ての客席に5万人の収容力があり、観客が快適に見物できるよう様々な工夫が凝らされていた。

なお、コロッセオはコロッセオ ―エレベーターや天幕まであった、ローマ一の構造を誇る円形闘技場―で詳しく説明しているので、よかったら見てほしい。

ウェスパシアヌスはコロッセオの完成を見ることはなかった。
それほどまでにコロッセオの規模は大きかったのだ。
着工から10年の歳月をかけたコロッセオは、ウェスパシアヌスの次の皇帝ティトゥスの治世に完成した。

ウェスパシアヌスのユーモア伝説:
死ぬ間際でもユーモアを忘れない男

晩年、身体が弱りつつあったウェスパシアヌスだったが、病を患って死を覚悟したとき、

かわいそうな俺、神になるんだろうな…

とつぶやいた。
皇帝は死後、神格化されることが通例になっていたので、これも彼なりの冗談だったのだろう。
そして彼は死に際し、こう叫んだ。

控えおろう、余は神になるのだ!

死ぬときでさえユーモアで人を笑顔にさせた、ウェスパシアヌスなのであった。

彼の宣言通り、ウェスパシアヌスは神格化され、神殿が造られた。
火山で灰に埋もれたポンペイの町にも神殿でウェスパシアヌスは祀られていたのである。

今回のまとめ

ユーモア皇帝ウェスパシアヌスをもう一度おさらいしよう。

  • 冗談を言いながらあの世へ旅立つほどユーモア好き
  • ネロ主催・参加の音楽会で居眠りし、出世街道から転落するも、皇帝まで登りつめた
  • おしっこ税は現在の公衆トイレの名前に名残が残っている
  • 人材採用にもケチの逸話が残っている
  • ブサイクもユーモアでカバー
  • ローマ市民への唯一のプレゼントはコロッセオ

ネロとその後に続く内乱で火の車だったローマの財政を、ケチと言われながら見事に立て直したウェスパシアヌス。

税を増やしても独特のユーモアキャラで庶民にも愛されたことだろう。

本記事の参考図書

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA