胸に秘めた野望を実現させるため、ついに動き出したカエサル。
だが、今の実力では自分のプランを実現するのに不十分と考えたカエサルは、ある人物たちの力を借りることを考えたのである。
ある人物たち――ローマで並ぶもののない軍事的実績をもつポンペイウスと、経済界一の大物、クラッススだった。
カエサル、ついに表舞台へ登場する
行政最高責任者である執政官への立候補
カエサルはローマに帰ると、さっそく凱旋式を行うために、元老院へ許可をもらうよう、代理人を派遣した。
凱旋式を行ったあとに、この年の執政官選挙へ打って出る予定だった。
しかし、反カエサル派の元老院議員たちは、徐々に危険な存在となりつつあるカエサルに対し、
- 凱旋式を行うためにこの年の執政官立候補をあきらめる
- 執政官へ立候補するかわりに凱旋式をあきらめる
の二択を迫ったのだ。
凱旋式といえば、ローマ男子最高の名誉。
これを行うために生きているといっても過言ではないのである。
カエサルは悩んだ末に実を取り、凱旋式を諦めて執政官へ立候補した。
だが、凱旋式によってローマ市民たちに、自らの栄誉を印象づけ、選挙への票集めにする予定だった目論見が崩れてしまった。
そこで、執政官に確実に当選する方法を、カエサルは考え出す。
同じように面目を元老院につぶされ、別荘へと引きこもっていたローマの英雄、『偉大なる』ポンペイウスをひっぱりだしたのである。
第一次三頭政治の始まり
8年前に行った、たった3ヶ月足らずでの地中海の海賊一掃作戦。
またルクルスに代わって行った、ポントス王ミトリダテス6世との戦いから始まる、小アジアとオリエントの遠征。
この2つのいずれも成功させた実績により、ポンペイウスは将軍として『偉大なる(マーニュス)』という、空前の名声を手に入れたのである。
だが元老院による主導体制を維持したい元老院派は、ポンペイウス個人の実績と人気を危険視していた。
ゆえにポンペイウスの凱旋式を認めはしたものの、彼の部下たちや兵士たち、さらに征服した東方諸国に対するポンペイウスの面目をつぶすよう、画策したのである。
元老院の仕打ちに嫌気がさしたポンペイウスは、別荘へと引きこもっていたのだ。
このポンペイウスの人気と実績、影響力をカエサルは利用しようと考える。
カエサルはポンペイウスに対し、自分の執政官当選への手助けの代わりに、ポンペイウスの部下と東方諸国への信頼回復を約束すると、話を持ちかけたのである。
これにより、カエサルとポンペイウスの間で密約がかわされた。
さらにカエサルは、この関係にもうひとりの人物、ローマ一の大金持ちクラッススを参加させる。
ポンペイウスとの人気、実績ともに釣り合いのとれない関係に、バランスを取るためだった。
こうして人気のカエサル、軍事的実績のポンペイウス、経済力随一のクラッススの三人による三頭政治は、秘密裏のうちに成立したのであった。
ちなみに、後にカエサルはポンペイウスとの関係を強固とするため、自分の娘であるユリアをポンペイウスへと嫁がせている。
カエサルとポンペイウスの妻ムチアとの不倫が、ポンペイウス離婚の原因にもかかわらず。
カエサル、執政官になる
三者による密約の結果、カエサルは圧倒的多数の票を獲得し、執政官に当選した。
カエサルは執政官就任すると、さっそく次のことを通達した。
元老院での議事録を、即日市民に公開する
いままで元老院で行われた議会の内容を知るには、元老院議員に直接聞くしか方法はなかった。
しかしこの通達以降、元老院議員たちは議会で下手な発言ができなくなったのである。
また、カエサルは国家公務員のあり方を定めた法を成立させた。
この中には、収賄の是正と徴税の透明化など、スペインの属州総督時代に行ったことを、ローマ全体の法まで広げることも盛り込まれている。
そしてカエサルは、執政官として宿願の法を提出する。
それがグラックス兄弟以来、タブーとされていた農地法であった。
ユリウス農地法の成立
グラックス兄弟の農地法とは、簡単に説明すると、持てる農地の上限を設定し、余った農地を持たない農民に再分配する、というものである。
カエサルはこれに加えて、退役兵たちにも年金がわりに土地を与える項目を追加した。
この農地法には、次の狙いがあった。
- 自作農を増やし、市民兵を増強する
- 中産階級を増やし、経済格差を小さくする
- ポンペイウスへの利益誘導
このうち(1)については、民衆派のマリウスによる軍制改革で、農民が徴兵されずにすむ志願兵となっていたため、解決済みだった。
問題は(2)だ。
経済格差が広がると社会情勢が不安定になる可能性がたかい。
加えて農地放棄による無産市民が増加すると、彼らを養うための社会福祉対策が必要となり、国家の財政を圧迫する。
だが大土地を所有するのは、基本的に元老院議員たちだ。
彼らは既得権益を手放そうとせず、そのためグラックス兄弟の農地法成立をことごとくつぶすか、死文化する(法律があっても機能しない)ようにしている。
カエサルはこのタブーを破るため、執政官の立場で市民集会で選挙を催し、三頭政治の票をバックに法を成立させたのである。
また、カエサルのやり方は巧妙で、元老院議員たちに法を守る誓言まで書かせるということまでやってのけたのだ。
元老院議員の大多数が反対だった農地法を成立させたことで、秘密だった三頭政治が明らかとなった。
この出来事に無力を感じた同僚の執政官ビブルスは、任期を9ヶ月も残して自宅に引きこもり、職務を放棄してしまった。
ローマの年を表す表記は、こちらの記事にも書いたとおり、執政官2人の名前を並べるのだが、通常ならこの年を
カエサルとビブルスが執政官の年
と表すところ、同僚が退場したおかげで
ユリウスとカエサルが執政官の年
と表せばいいと揶揄されるほど、カエサルの業績が目立つのであった。
ポンペイウスとクラッススへの利益誘導
カエサルが元老院の反対を押し切ってまで執政官に当選できたのは、実績で軍に絶大な支持のあるポンペイウスと、『騎士階級(エクィタス)』と呼ばれた経済界の大物クラッススのおかげである。
というわけで、カエサルはこの2人が得をするよう、巧妙に利益を誘導する。
ポンペイウスへの利益誘導は次の通り。
- 宙吊りになってい東方再編案の承認
- ポンペイウスの部下への土地配分(ユリウス農地法で解決)
- エジプトをポンペイウスのクリエンテス(保護地域)にする
一方クラッススへの利益誘導は次の通り。
- 属州徴税請負業者(プブリカヌス)の徴税予定額の1/3を支払う義務の廃止
これでポンペイウス、クラッススそれぞれの『部下』に対して顔をたてることができたカエサルは、いよいよ自分の野望を実現させるために、執政官の職権をつかうことにした。
カエサル、属州総督の赴任予定地をガリアにする
法務官同様、執政官も任期が終了すると前執政官(プロコンスル)として、ローマ属州のいずれかへ派遣される。
だが、個人に権力が集まること嫌ったローマでは、本人の希望に関係なく、あらかじめ元老院によって決められるのが通例だった。
カエサルもご多分にもれず、元老院から任地を執政官就任前から決められていた。
当初なにも言わなかったカエサルだが、ここに来て任地を変更する法案を提出する。
その任地とは、ルビコン川、アルノ川より北側で、アルプス以南の「ガリア・チザルピナ」と呼ばれた北部イタリアと、イリリア属州、つまり現在のスロベニアとクロアチアをあわせた地域である。
当然この地域は国境地域なので、軍事力も必要になる。
そこで4個軍団、計2万の兵と、カエサルが自由に任命できる副官も含んでカエサルに与えられる権利となった。
結局この法案も、元老院の反対を「三頭」の力で押しきり、成立させる。
さらにカエサルは、この年死んだメテルスが管轄していた、「ガリア・トランスアルピーナ(南仏)」も合わせて統括する補正案も、元老院に追認させた。
ついにカエサルは、軍事的な実績を得ることができる機会を得たのである。
新体制樹立を狙う鷹は、大空へと放たれようとしていた。
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